第15回 「わかりません」で大ゲン力(2)
僕は、五分ほどあれこれ説明したあげくに、”Pardon me?” とやられたことがいく度となくある。そのときのガクっとすることといったら、仕事を放りなげたくなるほどだ。
”Pardon me?” というのは、日本語の「え?」に相当するもので、ちょっとしたことを聞きとれなかったときに使う表現なのだ。五分にわたる説明に対して ”Pardon me?” とは、あんまりというものだ。
“Would you repeat it?” なども、ていねいに表現しているつもりらしいが、もう一度繰り返せ、つまり最初からもう一度ということである。五分も話をさせておいて、また最初からだって!?"、とこちらとしてはうんざりしてしまうのだ。まったく同じ言葉で繰り返したところで、一度目で理解できなかったのだから、二度目で理解できる可能性は少ない。
むしろ、自分はここまでわかりましたよ、と表示するのが賢明というものだ。つまり、”You mean (that)…” などのように、「おっしゃりたいことは……ということですね」と相手の話を自分なりにまとめるのである。そうすれば相手はもう一度、別の角度から、理解されていない部分について補足説明をしてくれようというものである。
もう一つ、ビジネス現場で translation aberration が生じやすい例をご紹介しよう。
recommend と suggest である。
日本語では、ともに「勧める」というほどの訳語になろうか。だが、実際の場合での意味はずいぶん違うのである。
まず recommend だが、これは上から下に発せられると、もはや「命令」と同じである。拒否はできない性質のものだと受け取られるのだ。一方、suggest はあくまで「提案」であり、良ければ取り入れ、悪ければ拒否もできる。両者はずいぶんと違う言葉なのである。
ところが、日本人は recommend が好きらしい。本社からニューヨーク支社へ、日本人上司からアメリカ人の部下へ、何でも recommend してしまうのだ。
日本企業で働くアメリカ人の友人は嘆く。
「”I recommend you do it.” と言うからその通りにやったら、なぜ皆の意見をもっと聞いてから事をすすめないんだ。本社の提案をウノミにするだけが能じゃないだろう、って言うんだぜ。じゃあ、suggest を使ってくれよってこっちは言いたいよ、まったく……」
僕には友人の嘆きがほんとうによくわかる。「勧める」に対応する英語を探してそれを安易に使ってしまうから、こんな嘆きが聞かれるのだ。
translation aberration にもっと気をつけなさいと、suggest ではなく、僕は recommend したい。