第27回 言ってみたいな「ハーイ、社長」(2)
ところが、日本人の間ではとかく形式が好まれる。
結婚式に招かれる度に僕は少々うんざりしてしまう。招くほうも招かれるほうも一様のいでたちで、型通りのスピーチ。形式を重んじることでハクがつく、と思っているようだ。
ある会社の社長が僕を昼食に招いてくれたことがある。小ぎれいなレストランで、料理もなかなか美味だった。ただ、あの二人で面とむかったテーブル中央の日米両国の国旗がなければ、もっと楽しめたのだが。
おそらくきちんとした会談を演出したかったのだろう。重みのあるものにしたかったのだろう。尊重という意味あいがあったのだろう。
僕はキッシンジャーにでもなった気分で、イマイチ落ち着かなかった。むしろ形式をくずすことでフレンドリーな姿勢を示してほしい、と思ったのだった。
アメリカ式の形式をくずすというやり方は、挨拶にもよく表れている。
“Good afternoon.”
正しい英語だ。だが、友人にこう言ったら、必ずや問い返されるであろう。
「何かあったの? どうしたの?」
「怒ってるの?」
要は、形式ばっているからである。
二、三度会った人になら、“Hello!”さらに親しければ “Hi!”と言う。親しみをこめて “Hi!”と言ったのに、“Good afternoon.”と答えられたらショックなのだ。こっちが示す親しみを拒否されてるみたいで。
形式を守る、くずすの点については、日本人、アメリカ人双方の歩み寄りしか道は開かれそうにもない。お互い、相手に良かれと思ってやっているのだから。僕も机に座らない代わりに、キミも「ハーイ、社長!」と気軽に言ってくれてもいいと思うのだけれど。