コラム

クジラの世渡り

第30回 所変われど品変わらず

「所変われば品変わる」とはよく言われることだが、人間の性癖には洋の東西を問わないものもあるようだ。
たとえば僕は、長い滞日生活の中で、来日当初から現在に至るまでずっと変わらず同じ憂き目に遭い続けている。それは日本人から浴びせられる異口同音の質問である。

「日本はどうですか。住みやすいですかね?」
「日本は好きですか。日本人をどう思います?」
これを毎週、少なくとも十回はやられるのだからいい加減うんざりだ。

「日本人ってのは何て頭が悪いんだ。年がら年じゅう同じようなつまらない質問ばかりしているじゃないか」と僕が言うと家内は、「そんなことはないわよ。初めて会ったアメリカ人には他に話の切り出しようがないじゃないの」―こう同国人を弁護したものだ。

ところが、家内を連れてアメリカへ戻ったとき、二週間ほどたつと家内が言った。
「アメリカ人はあまり頭がよくないんじゃない? 私の顔を見るとみんな同じようなくだらない質問をするんですもの。やれ、アメリカはお好きですか? 住みやすいですかって!」
僕は腹を抱えて笑ってしまった。日本人もアメリカもバカさ加減では大差がないぞ、と思ったのだ。

結局、どこの国の人間も自分の国が好きなのだ。意識していなくても誇りを抱いている。だから外国人を見るとついつい「私の国はどうですか」と聞きたくなってしまうのだ。そして、「とってもいい国ですねえ。大好きになりました」と答えてくれるのを期待している。悪口を言われるなどとは思っていない。相手が期待通りの答えをしてくれるとホッとする。
「たぶん、人間の基本的な感情だけは万国共通だろうよ」
僕と家内は、お互いの国を往来する度にその感を強くしているのである。

だが、まだまだ「所変われば品変わる」の部分は数多くある。僕のように二つの国にまたがって生きている者には、毎日が発見の運続とも言えるくらいだ。幾つかの僕の体験から面白い話をご披露したいと思うが、「へー、外から見ればそんなにけったいなことなのか」と日本の姿を見直してもらえれば幸いである。

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