コラム

クジラの世渡り

第33回 皮靴をはいた猫!(2)

生き延びる訓練の一つの基本は、抵抗する姿勢をくずすことだった。そのためにネズミ、蛇、トカゲといったゲテ物料理を無理やりに食べさせられた。兵士は、どんなゲテ物を食べても自分は死なないし、食べることで生き延びられるのだということを学ぶわけである。ちなみにネズミの中には焼いて食べるとけっこういける味の物がある。

最近も、出張先でコウモリの丸焼きを食べなければならない羽目に遭った。そのときもサバイバル・トレーニングの要領で乗り切ったが、今思えばあのときの寿司屋は、僕にとってはまさに戦場であり、寿司は生き延びるために飲み込まなければならないゲテ物だったのだ。
酒をたくさん飲み、勧められるままに寿司を飲み込んだ。味などまったく覚えていない。翌日、自分が死んでいないことがわかったとき、僕の感じた安堵をご想像頂きたい。寿司は安全な食べ物だということがわかったのだ。

それから、回を重ねるごとに寿司にも慣れ、少しずつ味がするようになり、自分に合うネタがわかるようになった。今は光りものがやや苦手な程度で、寿司と刺身は僕の大好物にさえなったのである!
最近は寿司も目の玉が飛びでるような値段になり、サラリーマンが気軽につまめる店が少ないのはいかにも残念、と思うほどなのだ。

今夜も銀座あたりには、いやいやながら寿司屋の暖簾をくぐる「皮靴をはいた猫」がいることだろう。中には面目なくも猫にすらなれず、青くなって退散するガイジンもいるかもしれない。

「ああ、あの魚の目が夢に出そうだ!」などと言わずに僕を見習って欲しい。その国の食文化を胃袋で理解すること、つまり胃文化のコミュニケーションに成功することは、異文化間コミュニケーションの重要な要素なのでもある。

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