コラム

クジラの世渡り

第35回 やせ我慢もほどほどが肝腎(2)

そこまで我慢すると、むしろ相手はとんだ迷惑をこうむってしまう。この件ではカキの店の主人が、大損害をこうむったとして名誉棄損で訴えるといきまいたりしたらしい。店にとっては評判が落ちでもしたら大事だからそれは当然の態度だろうが、まきこまれたアメリカ人はほとほと困り果てたようだった。「嫌いなら嫌いと言ってくれさえすればよかったのに」と、そのアメリカ人は今だに腹を立てている。

しかし、食べ物の好き嫌いは言いにくい。まして外国でもてなしを受けた場合は、つい言いよどむことがある。しかし、限度を超えた我慢はやめたほうがお互いのためである。彼に会ったらまたアレを食べさせられる、という恐怖感が人間関係にまで影響を及ぼすことは充分に考えられるからだ。

また、食べ物には服装と同じようにTPOがある。仕事上で日本人と付き合う場合にいちばん良いのは、焼き鳥屋あたりでビールでも飲みながら世間話をし、そのついでといった感じで仕事の話にもっていくやり方である。超一流のフランス料理店などへ行こうものなら、まとまる話もまとまらなくなるおそれがある。互いに胸襟を開く雰囲気ではないからだ。ビジネス上の付き合いで飲食をともにする場合、それぞれのお国がらに合わせて、お近づきのためにするもの、男どうしの付き合いでいくもの、アットホームにいくもの、形式にのっとってやるものと、TPOをよく考慮する必要がある。

しかし、いずれのスタイルであれ、基本はエンジョイすることである。楽しい食事は誰をも幸福にする。できることなら食べ物への好奇心をいつも抱いて、新しい味と新しい豊かな人間関係を常に開拓していきたいものである。

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