コラム

クジラの世渡り

第38回 ロン・ノボルを笑うなかれ!

名刺を交換するにせよ、しないにせよ、人と人とが出会ったからには自己紹介は不可欠だ。「はじめまして、よろしく」に日本も米国もない。ここまでは誰しも思うことだから、僕の友人、ベン・ジョンソンもにこやかに初対面の日本人に自己紹介をはじめた。「私はベン・ジョンソンと申します。Just call me Ben.」―要するに「ベンと呼んでください」とはじめたのだ。対する日本人の峰岸さんは、少々面食らいながらも名刺を差し出し「峰岸です」と応じた。
「何とおっしゃるので……」
「峰岸、ミネギシ、ミ・ネ・ギ・シ」
と峰岸さんが三度応じたときに、ベンは答えた。「ミニギシさんですね。じゃあ、ミニと呼ばせてもらいます」

西洋人が相手の名前を覚えようと積極的な姿勢を示すのは一種の敬意である。愛称で呼びあうことは、敬意を表しつつも親しさの表現になると信じているのだ。だが、小柄の峰岸さんにこの思いは伝わらず、ベンはミニなどという失敬なあだ名をつける失礼な奴としりぞけられる結果となった。

これはロン・ヤス時代以前の話であるが、現在でも、「ノボルと呼んでくれ」の竹下さんを面映ゆく感じる日本人は多かろう。夫婦ですら人前で名前を呼び合う習慣の少ない日本人、しかも大の大人、いいオジサンどうしが「ベン」「ミニ」でもなかろうに、という気持ちは僕にも理解できる。がしかし、米国のビジネスマンは恥ずかし気もなくごくごく普通に、「レーガンさん」ではない「ロン」を呼び名にするのである。僕も当年55歳だが、「フランク」と呼んでもらいたい思いは十分にあるのだ。

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