コラム

クジラの世渡り

第41回 戦略としてのビジネスランチ

会社にとって重要なクライアントをいかにしてもてなすかーそれがビジネスマンに課せられた大きな仕事であるという点は日本でもアメリカでも変わりがない。ところが、その方法ということになると、お国柄の違いが歴然となる。たとえば仕事上の接待の基盤は何かというと、アメリカではビジネスランチ、つまり昼食である。
「え、昼飯で客を接待するの?ずいぶんと粗未なことをするもんだなあ」と、自分がいつも食べている昼食を思い浮かべながら首をかしげる日本人のために、少々説明させて頂こう。

日本では、接待費の経費に占める割合をかなりたっぷり取ってあるのが普通である。税制上の優遇措置もある。そのため、接待は金をかけるものという習慣がまかり通る。高度経済成長期になど、いったいどれほどの金が銀座につぎこまれたことだろう。おそらく、天文学的な数字であったに違いない。

片やアメリカでは接待費を認めていない。内部監査によるチェックもきびしい。まったくないわけではないが、一人当たりの金額は低く、しかも税金がかけられる。よほど仕事上の成果が期待できる接待でなければ、きびしい内部監査にあって切り捨てられてしまうのだ。
「まあ、いいから僕に払わせろよ。どうせ経費で落とすんだからさ」
「じゃ、この次は僕が払うよ。ちょっと、ここんとこ経費使いすぎてるんでね」
よく飲食店で日本の社用族同士の交わすこんな会話を耳にすることがあるが、アメリカではまず考えられない。会社の金というと急に気が大きくなる日本人を、不思議とも、うらやましいとも思った米国人は多いことだろう。
こういうわけで、アメリカでの接待の基盤はビジネスランチということになるのだ。税務署も「スリー・マティニ・ランチ」といって、昼食に酒が入ることをある程度までは積極的に認めている。つまり、ビジネスマンが昼食を接待として戦略的に利用することがほとんど常識になっているのである。その精神は、「少ない経費で大きな成果を」である。

これにはもう一つの理由がある。
アメリカでは、仕事上の人間関係は勤務時間内に作るものという考え方が一般的なのだ。だから、特別な交渉があるなしにかかわらず、普段でも、昼食時間を社外の人間との付き合いに使うビジネスマンが多い。新しい刺激、新しい情報を得るための貴重な時間だからだ。
「さて、今日はどこで食べようか?」昼食時間ともなると、金魚のフンのごとく同僚と連れだって出かける日本のビジネスマン。彼らにとっての昼食時間は、アフター・ファイブの接待に備えた束の間の休憩、息抜きなのかもしれない。接待のために自分の時間が削られることも厭わず、深夜まで駆けずり回る日本のビジネスマンと、昼食時間も客との交渉に費やすアメリカのビジネスマンと、果たしてどちらが時間を有効に活用しているのか、私は時々考えこんでしまうのである。

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