コラム

クジラの世渡り

第43回 傘の素振りにご用心!

日本では、これまで述べた以外に、また別の接待もある。飲むに加え、打つ接待もあるからだ。二昔前までは、「打つ」といえば、おおむねマージャンであった。僕もずいぶん授業料を払ったものだが、マージャンは、仕事に利用できる利点も多い。「人となり」が出るのである。勝つにしても、負けるにしても、「その人」が現れる。負けっぷりが悪い人とのビジネスは、どうも気乗りがしなくなるし、逆に負けっぷりのいい人には信頼感をもったりする。
「クディラさん、いい手ですね。すごい」
僕にヤクマンを振りこみながらこう言ってくれた、とある会社の社長には、胸を借りるつもりで取引を願ったことすらある。

じゃあ、アメリカ人を接待するときはマージャンを利用するのもテですね、と思うのは早合点というものだ。白黒はっきりつけることをよしとするアメリカ人にとって、人となりを観察するゲーム、あるいは自分を見せてゆくというゲーム感覚はどうもなじめない。ポーカーにしても、アメリカ人は単に勝つことのみを目標に遊ぶ。もっとも、負けっぷりの悪い人が sore loser といって嫌がれるのは日米共通であるが。マージャンを異文化間コミュニケーションの道具に用いるには、アメリカ人のマージャン人口が増え、奥義まで到達するのを待たねばなるまい。まだ、このあと一世紀くらいはかかるのではなかろうか。

さて、近年の「打つ」のほうはどうであろうか。ゴルフのことである。朝五時起きをして、二時間も三時間もかかるゴルフ場にむかうビジネスマンには頭が下がるところだが、そこまでしなくても、という思いも強い。要はゴルフ好きなのだろうか。それとも、高級なスポーツ、手の届かなかったスポーツがやっと一般サラリーマンの手の届くところにおりてきて、うれしくて仕方がないのだろうか。アメリカではゴルフ場はもっと近いし、手軽なスポーツとして親しまれている。好きな友人と出かける、純粋なレジャーの一つと考えられている。

日本人がビジネスとすぐくっつけてアメリカ人をゴルフに接待しても、期待したほどの効果があがるとはとても思えない。先日、ニューヨークの友人が言っていた。
「フランク、あれいはいったい何なんですか。ニューヨークのど真ん中で、日本人ビジネスマンが傘の素振りをやってるんですよ」
ニューヨークにまで出現したか、と思わず僕は頭を抱えたが、そう言えば、日本人のゴルフ好きを扱ったマンガを見たこともある。どうやら、アメリカでは、日本人のゴルフ好きも皮肉の対象になっているようである。
ご用心!

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