コラム

クジラの世渡り

第44回 「上座」の怪

接待の型に現れるお国ぶりの違いがおわかり頂けたと思うので、今度は、同じ接待方法をとった場合の違いについて話してみよう。レストランなどで食事をする場合だが、不思議なことに上座というのはどこの国でもあるのである。ただ、その場所に対する考え方が多少違っている。上座というのはそこでいちばんいい席のことである。だから、いちばん重要な客がその席に座るのが普通である。日本ではその上座の場所が初めから決まっているのだ。それが和風の座敷であれば床の間の前となり、洋式のレストランなどではいちばん奥の壁がある側となる。

これがアメリカでは違っている。上座とは、客が最もくつろげる心地よい席ということなのだ。その店に庭があれば眺めの最もいい場所が上座となり、寒い季節であれば最も暖かい席が上座となる。そしてアメリカ人は、相手をアメリカでいう上座に座らせようとするときは、必ずその理由を説明するものなのだ、
「こちらの席は眺めがよろしいので、ぜひこちらへどうぞ」
「こちらのほうが暖かいですから」
などと、上座が一定していないから、押しつけがましく聞こえることもあるが、その理由を口に出すのである。自分の思いを過剰にアピールすることが、アメリカ式とも言えるかもしれない。

僕の場合は反対に、日本式の上座がわかっているつもりでとんだ失敗をしたことがある。それは私が妻とまだ交際中だったころのことだ。料亭に彼女を招待した私は、得意顔で彼女を上座に座らせようとした。すると彼女は実に困った顔をして、
「ここは女性が座る席ではないわ。あなたが座ってください」
と言うのである。
「どうしてですか?あなたは私の大切なお客様じゃないですか」
と僕が尋ねると彼女はこう答えたものだ。「日本の女性は上座に座らないんです。上座は男性だけの特権なんですよ」
いやはや日本という国は複雑怪奇だなあと思ったものだが、それも今では楽しい思い出である。

時は移り、最近の日本では、上座としか思われない席にちゃっかり子供が座っていたりすることがある。今の日本では子供こそ特権階級なのかもしれないなあと感慨にふける僕などは、今や古いタイプの人間なのかもしれない。

グローバルコミュニケーション研修のことなら何でもご相談ください。

PageTOP