第46回 注文の多い料理店?
「ドレッシングはいかがなさいますか?」「フレンチドレッシングでいいよ」「卵はいかがいたしましょうか?」「普通の焼いたので」「ジャガイモはリヨネーズ風に、それともフライドポテトがよろしいでしょうか?」「ああ、めんどうくさい!好きにしてくれよ」欧米のレストランで食事をする場合、日本人が面食らうものの一つにウエイターとの応対がある。欧米でも日本と同様「お客様は神様」であるが、サービス精神の表し方にはかなりの違いがあるからだ。欧米のウエイターはすべてチップ制で働いていることにもよるのだが、彼らは自分たちの仕事を料理の上げ下げだけとは考えていない。客の選んだ料理が最も喜んでもらえるものになるよう、料理の仕方などまでいちいち指示を仰ぐ。聞かれる客にすれば適当にやってくれるほうがありがたいのだが、チップがかかっている彼らにすれば、それが最高のサービスだと思ってやっているのだ。
不慣れな外国のレストランで、どんな料理かさえ定かでないところへもってきて、ウエイターにああでもないこうでもないと質問攻めにされて閉口した経験があなたにはないだろうか?料理が出てくるまでのコミュニケーションがスムーズにいった場合はおいしく食べられるのだが、いったん失敗すると料理までまずくなってしまうのだからやっかいだ。「食べる前に食欲がなくなっちゃって、肝腎の料理がきたときにはもうノドを通らなかったよ」油汗をにじませ、何とか料理を飲み込んだものの、後になって消化不良に苦しんだというのでは何のために接待を受けたのかわからなくなる。しかし、こればかりは慣れる以外に道はない。
かくいう私も日本でとんだ目にあったことがある。かなり日本語も身につき、日本の食べ物についても自分ではけっこう知っているつもりになっていた頃のことだ。とんかつ屋に入った私は、胸を張って「ヒレカツ定食ください」と言った。カウンターに座っていた何人かの日本人は、外国人が入ってきて、慣れた風に日本語で注文したのを物珍しそうな顔で眺めている。私はいい気分で注文の品が出てくるのを待った。すると店の人が、「上ですか?並ですか?」と聞いてきたのである。それからの私は、穴があったら入りたいほどの気持ちになった。「え、ジョウってなんですか?」店の人は黙って壁に貼ってある品書きを指さした。なるほどジョウというのは「上」という字で、値段も高い。つまりヒレカツのスペシャルという意味だったのだ。納得がいった代わりに、私の食欲はペシャンコに消えていた。「なんだ、知ってるようでもやっぱり外国人だな。並みと上の区別もつかないんだから」とでも言いたげな日本人客の視線を浴びながら食べたヒレカツ定食のまずかったこと!この体験以来、僕は、欧米のレストランで困りはてている日本人のよき理解者となったのである。