コラム

クジラの世渡り

第47回 沈黙は必ずしも金ならず

どうやら注文をこなし、ウエイターが立ち去ってから料理がくるまでの十五分が次なる課題である。ただじっと黙りこくって料理がくるのを待っていたのでは、どんな食事もまずくなってしまう。会話のはずまぬ食卓ほど無味乾燥なものはないからだ。ここで会話の糸口を探しだし、客の緊張をときほぐすのが招いた側の仕事である。通常、世間話の恰好の話題といえばお天気であろう。客が外国人であれば、「今ごろですと、あなたのお国ではかなり寒いでしょうなあ」とでも言えば二、三分はかせげるものだ。

その次に無難な話題は相手の趣味を尋ねることである。「ほう、釣りがお好きなんですか。よい趣味をおもちですなあ」といった風に関心を示して、客の話を引き出すのである。健康維持のために何かスポーツをしている人も多いから、それを聞いてみるのもいいだろう。とにかくそこで、客との間に共通の趣味が出てくればしめたものだ。「実は私も最近釣りをはじめましてね。どうです、今度ごいっしょに渓流釣りでも……」「それはいいですなあ。いや、ぜひごいっしょ願いたい」こうなったら、もうこれからの交際の基盤ができ上がったようなものである。

趣味やスポーツの話に次いでよいのは食事の話題だ。その日の食事が日本料理であれば、「フランス料理はお好きですか?」などと聞いてみる。もし好きだということがわかれば、「じゃあ今度はフランス料理で」と、次に会うための仕掛けもできる。そして、食卓の雰囲気を最高に盛り上げるのが共通の知人についての話題である。どちらもが好感を抱いている人物の話はお互いの気持ちを和らげ、それだけで初対面の相手がとても身近に感じられてくる。こうして和気あいあいのうちに十五分がたち、完全にうちとけたところへ料理が運ばれてくれば、その日の食事がいやが上にも楽しいものになることは請け合いである。

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