コラム

クジラの世渡り

第60回 パーティー会場の「花」と「蝶」

「壁の花」という言葉は誰もが知っていると思う。ダンスパーティーなどで男の子からの誘いがかからず、所在なげに壁際に佇んでいる少女の姿がすぐ目に浮かぶ。しかし、それもソバカス顔にポニーテールの、初々しく愛くるしい少女ならいざ知らず、むくつけき中年男がグラスを片手に壁の隅でもじもじしていたところでお話にも何にもならない。カクテルパーティーなどで、僕は、「壁の花」になってしまっている日本人をよく見かける。人びとの談笑の輪にどうしても入ることができず、誰かが声をかけてくれるのを待っているのだが、それではカクテルパーティーに参加した意味がない。カクテルパーティーは様ざまなジャンルの人との出会いを通して、新しい知識や情報を獲得し、自分をリフレッシュする絶好の機会なのだ。出席するからには一人でも多くの招待客と接して、自分をアピールするくらいの積極性がほしいところだ。

普通、カクテルパーティーでは、招いてくれた人に挨拶をすれば、その人がまた別の人に自分を紹介してくれる。とくに外国人であったり、その集まりに出席するのが初めての場合には、招待した側が気をきかして他の客への顔つなぎをしてくれるものだ。だが、それはあくまで紹介に過ぎないから、後は自分で要領よく会場を歩き回るしかない。より甘い蜜を求めて花から花へ飛ぷ蝶のように、とでも言えばよいだろうか。ただ、この花が気に入ったとばかりに一人の人にあまり長くつきまとわないことだ。カクテルパーティーは蝶の集まり、相手も自由に飛び回りたいのだから。

また、日本の宴会とは違い、カクテルパーティーでの飲み過ぎはいけない。夕食前の軽い飲食の会なのだから、カクテルパーティーで酔っぱらった日本人などという不名誉な評判が立たぬよう、グラスを何度も空にするような真似は慎むべきである。カクテルパーティーで酒を注ぐ役は主催者側の仕事と決まっている点も、日本の宴会とは違っているから気をつけたい。日本では「差しつ差されつ」と言って、一つ座敷に集まった者は区別なく酒を注いで歩くが、カクテルパーティーではタブーである。こうして会場をまんべんなく歩き、カクテルパーティーならではの弾んだ会話や軽いジョークの応酬に楽しい一時をすごしたら、長居は無用。「とても楽しいパーティーでしたよ。お招き頂いてありがとう」と礼を言って引き上げるのがいちばんだ。

もし、これが個人の家で開かれるハウスパーティーである場合は、集まったご婦人方はホステス役をしてくれた夫人に手を貸して、後片づけを手伝うのが普通である。「そんなことして嫌がられないのかしら?私だったら台所なんか入られるのはお断りだな」―日本の主婦ならこう思うかもしれない。だが、家へ客を招いておきながら、ずっと奥さんが台所にひっこんでいたのでは客に対して失礼だと考えれば、共にパーティーを楽しんだ者どうしで後片づけをし、ホステス役の夫人の労をねぎらうことはとても自然ではないだろうか。

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