第70回 欧米人なら「二人寄れば文殊の知恵」!?
英語には"All’s well that ends well"という諺がある。直訳すれば「終わりよければすべてよし」 といったところだろうか。やはり日本人とはずいぶん違う。欧米人は過程よりも結果を重んじるのだなあ。日本人は「初めよければすべてよし」と言うのに、と思われるかもしれない。僕は、やはり日本人というのは「型」にこだわるんだなあ。すべり出し、最初の型が大事なんだ、と思う。
柔道を習ったときもそうだった。毎日毎日、転ぶ練習ばかりで、こんなことで何の役に立つのだろう。実践に役立つ技術を学びに来たのだ。もうやっていられない、と途中で投げ出した仲間も多い。だが、お互いにそんな違いにばかり目を向けていると、肝腎の ends well を忘れてしまうことになる。欧米人も日本人も、要は「いい結果」を望んでいるのだ。物事の運び方が違っているだけである。誰だってうまくやりたいことに違いはない。
「日本人はがむしゃらに働くだけで、生産性ではこっちが上だ。だって『三人寄れば文殊の知恵』って日本じゃ言うけど、英語では、"Two heads are better than one."だからね。三人のところを、僕らは二人でまかなっちまえる!」 僕らが気のおけない日本人によく使う冗談だが、これだって、欧米人も日本人も思いは同じということの証拠である。
"Kill two birds with one stone."に至っては、まったく同じ発想、つまり「一石二鳥」の意である。
「いや、これは日本語から直訳して英語にしたんじゃないですか」 「逆だよ、英語から日本語に訳したんだ」 「中国が源じゃないの」 「ローマ帝国にもある」 「落語の中にも出てきているんだぜ」 日ごろは無国籍ふうな輩も、こういう話になると妙に愛国心が芽ばえてくるらしく、誰も譲ろうとしない。ひとしきり彼らが論争を楽しんだところで、僕はおもむろに言う。「両方正解!」
つまりはこうである。まだ文化交流などというものが盛んではなかったころから、東洋でも西洋でも同じような表現があったのである。人間の知恵、賢さというものは、一地域集中のものではないのだ。知恵の求めるところは地球レベルで同じく、諺はその一つの現れなのである。人類の全てに知恵は流れている。